慢性腎臓病の罹患者数は年々増加しており、低下した腎機能を回復させる食品素材が求められています。現行での腎機能を評価する診断マーカーとして尿素窒素やクレアチニンの測定が行われていますが、初期の腎機能障害を反映しづらい欠点があります。腎障害は悪化により末期腎不全に陥り、その治療には血液透析や腎臓移植などが必要となることから、早期発見と予防が重要とされています。最近の研究により、植物由来のポリフェノールは、抗酸化物質や抗炎症因子としての腎臓保護効果が報告されていますが、フラバノン配糖体であるヘスペリジンやそのアグリコンであるヘスペレチンについても動物を用いた試験結果により腎障害に対する抑制効果が明らかにされつつあります^{1 - 4)}。
　　さらに最近では、水溶性を増大させた糖転移ヘスペリジンを用いた極めて強い腎障害予防効果が示されています。糖転移ヘスペリジンはアデニン食によるマウスを用いた腎結石モデルの腎障害を抑制し、食餌のアデニンから腎結石の原因物質である2,8-ジヒドロキシアデニンの生成に関わる肝臓由来キサンチンオキシダーゼ活性を阻害した結果に基づくことが明らかにされました⁵⁾。キサンチンオキシダーゼは尿酸形成に関与する酵素であり、糖転移ヘスペリジンの抗痛風効果も期待されています⁶⁾。
　一方、糖転移ヘスペリジンの水溶性を利用した飲水投与による糖尿病性腎症マウスの腎炎に与える影響についても検討されました。マウスに糖尿病を発症させ、糖転移ヘスペリジンを4週間飲水投与させた結果、血糖値を変化させることなく、糸球体保護効果、さらに尿細管障害や組織線維化を予防したことから、糖転移ヘスペリジンが尿細管上皮細胞の保護効果を介して腎線維化を予防する可能性が示されています⁷⁾。特に尿細管障害は抗癌剤の副作用や紅麹を始めとする腎毒性においても密接に関係することから、以上のようなヘスペリジンの腎臓保護効果は新たな機能性食品素材の設計に有用であると考えられています。