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ヘスペリジンの血清脂質低下作用
1.動脈硬化性疾患の危険因子としての脂質異常症とメタボリックシンドローム
 糖尿病、高血圧症、喫煙などとともに、脂質異常症は冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)、脳梗塞などの動脈硬化性疾患の重要な危険因子の1つです。脂質異常症にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪(トリグリセライド)増える場合や、HDLコレステロール(善玉コレステロール)減る場合が含まれています。スタチン等の薬でLDLコレステロールを下げると、冠動脈疾患のリスクを減らすことが多くの大規模臨床試験で示されています。
 一方、「メタボリックシンドローム」は「メタボ」とも言われますが、最初は「内臓脂肪症候群」とも呼ばれ、内臓脂肪の蓄積を背景に、高血圧症、高血糖、脂質異常症(高中性脂肪血症または低HDLコレステロール血症)のうち二つ以上が重なった状態で、動脈硬化が起こりやすい状態となります。動脈硬化防止対策として、食事療法や有酸素運動によって内臓脂肪を減らすとともに、血中の過剰な中性脂肪を下げることも重要です。

2.ヘスペリジンの脂質異常症改善作用とそのメカニズム
 食事からとった糖質や脂肪は肝臓に運ばれて中性脂肪やコレステロールエステルとなり、肝臓でVLDL(超低比重リポたんぱく質)として合成・分泌されます。必要以上に大量に中性脂肪が合成されると、血液中にVLDL由来の中性脂肪が増え(高トリグリセライド血症)、急速に動脈硬化を進行させることになります。中性脂肪が過剰になるとレムナントや小型のLDL粒子が増加し、動脈硬化を進行させます。
 糖転移ヘスペリジンが中性脂肪を低減させるメカニズムは、ラットを使った試験で検証されています。糖転移へスペリジンは、肝臓でつくられる中性脂肪やコレステロールエステルの量を低減させることで、VLDLの合成・分泌を抑制し、血中の中性脂肪量を正常に保つ作用があることが動物実験1)でわかっています。この試験では、高脂肪食を与えて血清脂質異常を誘導したラットに、糖転移ヘスペリジンを投与すると、肝臓の脂肪酸合成にかかわる酵素(FAS)の遺伝子発現を有意に抑制し、一方で脂肪酸の燃焼にかかわる酵素(CPT1、CPT2)の遺伝子発現を有意に増加させることが確認されました。つまり、中性脂肪の原料である脂肪酸合成が抑制されるとともに、脂肪酸の分解も促進されるため、結果として中性脂肪の合成量が低減され、肝臓でのVLDL産生が抑制されて、血清中性脂肪が減少するのです(図1)。
 さらに、ヒトにも同様の効果があるのかどうかを確かめるための臨床試験が行われました2)。髙中性脂肪のグループでは、1日500 mgの糖転移へスペリジンを6ヶ月間継続摂取すると、中性脂肪値が3〜4割低減しました(図2)。一方、ボーダーライン(境界域)グループや正常値グループでは中性脂肪値は低減しませんでした。この臨床データから、糖転移へスペリジンには「中性脂肪を低減する作用」があり、中性脂肪高値者に選択的に効果を示すことが確認されました。最近の冠動脈バイパス術施行後の鬱状態の患者において、ヘスペリジン投与はプラセボに比し、有意な中性脂肪の低下を示すことが報告されています3)。ヘスペリジンは中性脂肪値を低減させるだけでなく、LDLコレステロール値の低減効果4)も知られていることから、血清脂質を質的に改善する可能性のある糖転移へスペリジンに大きな期待が集まっています。

3.糖代謝・脂肪肝・肥満へのヘスペリジンの効果
 ヘスペリジンはストレプトゾトシンによって誘導される1型糖尿病ラットにおいて、血糖や中性脂肪値を改善し、動脈硬化と強く関連する糖代謝異常にも効果を示すことが報告されています5)。最近ではヘスペリジンの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の改善効果6)、抗肥満効果7)も示されており、今後の研究の発展が大いに期待されています。

文責:山下 静也(地方独立行政法人りんくう総合医療センター・理事長)

参考文献
  1. 1) 三皷仁志,安田(山下)亜希子,新井紀恵 ほか:糖転移ヘスペリジンは肝臓のトリグリセライドとコレステロールエステルの低減を介して高脂肪食負荷ラットの血清トリグリセライド濃度を低下させる.薬理と治療(日本臨床試験学会雑誌 39 (8) : 727-740, 2011
  2. 2) Miwa Y, Mitsuzumi H, Sunayama T et al : Glucosyl hesperidin lowers serum triglyceride level in hypertriglyceridemic subjects through the improvement of very low-density lipoprotein metabolic abnormality. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo) 51(6) :4 60-470, 2005
  3. 3) Booyani Z, Aryaeian N, Omidi N et al : Hesperidin reduces serum levels of triglyceride after coronary artery bypass graft surgery. Food Sci Nutr 11(11) : 7145-7154, 2023
  4. 4) Wang X, Hasegawa J, Kitamura Y et al : Effects of hesperidin on the progression of hypercholesterolemia and fatty liver induced by high-cholesterol diet in rats. J Pharmacol Sci 117(3) : 129-138, 2011
  5. 5) Akiyama S, Katsumata S, Suzuki K et al : Dietary hesperidin exerts hypoglycemic and hypolipidemic effects in streptozotocin-induced marginal type 1 diabetic rats. J Clin Biochem Nutr 46(1) : 87-92, 2010
  6. 6) Morshedzadeh N, Ahmadi AR, Behrouz V et al : A narrative review on the role of hesperidin on metabolic parameters, liver enzymes, and inflammatory markers in nonalcoholic fatty liver disease. Food Sci Nutr 11(12) : 7523-7533, 2023
  7. 7) Xiong H, Wang J, Ran Q et al : Hesperidin: A therapeutic agent for obesity. Devel Ther 13 : 3855-3866, 2019
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